-第55回-
漫画家甲斐谷忍さん
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凱旋門賞を勝てる馬を探し出す
市丸: 作品の中でパドックの達人(ゴンゾウ)が出てきましたが、あの厩務員を見て馬券を買うという発想はすごいなあ、と思いました。
甲斐谷: 「ONE OUTS」の担当だった方にパドックの見方はひと通り習ったのですがあの馬が胴が長いとか、詰まっているとか見ていても全然違いがわからなかったんですね。そうしたら「甲斐谷さん、いい方法があります。ネクタイをしている厩務員がいるでしょう。5レースとかでネクタイをしているというのは明らかに表彰式に行く準備をしていますよね」と。それで「おれ、その方がいい!」とその日はネクタイをしている人の馬ばかりを買ってそこそこ当たったんですよね。
市丸: パドックは馬を見るところだと先入観を持ってしまいますが、そういう発想が出てくるのは素晴らしいですね。少し話は戻りますが、岡田さんのすごさというのは、どのあたりに感じられますか?
甲斐谷: 馬を見るという面では、パドックって、16頭とか並んでいる中で良く見える馬を言う「横の比較」と、七雄のように、前回との比較で馬を選ぶ「縦の比較」の2つのパターンがありますよね。
市丸: 一般的にはそういう考え方ですね。
甲斐谷: でも、岡田さんのパドック解説を聞いていると、「この馬は中山のダート1800mが向いている、その馬が芝短距離に出てくるというのは、馬は悪くないけれど無理でしょう」とそういう判断をされるんですよ。ただ、競馬場の達人でもそうでしたけれど、「調子はどうですか?」と聞いても「わからない」と。素質を見ることについては自信がある、でも、わからないところはわからないという、そういう潔さはかっこいいですよね。また、G1のように最後は素質勝負になる格の高いレースほどよく当てられると思います。
市丸: また、吉田照哉さんも好きでいらっしゃるそうですね。
甲斐谷: きっかけは、デットーリ騎手がJCダートとジャパンCを2日続けて勝った年でした。
市丸: イーグルカフェ(5番人気)とファルブラヴ(9番人気)の02年ですね。
甲斐谷: アシスタントが2日連続で単勝を獲ったのですが、吉田照哉さんが「デットーリが乗ると5馬身違う」と言っていたのを信じて買ったそうなんです。それからですね。自分は実に平凡な競馬ファンなので、ぼくが見えないものを見える人にはすごくあこがれるんです。社台ファームの馬はG1で乗り替わると激走することも多いですし、デインドリームが凱旋門賞を勝つ前に買ったり、絶対なにか見えていると思うんですよ。あと武豊騎手も、自信がありそうなときにはブログやコラムの文章にやんわりとそれが出ているように思えますし、この二人は馬の能力が見えていると思っています。
市丸: 馬はいかがでしょう。特に思い入れのある馬などは。
甲斐谷: ぼくが馬券を買い始めたころに、アシスタントと担当さんで、「最強馬はどの馬か?」という議論がなされていたんです。スペシャルウィークの世代のときですね。そこでセイウンスカイやグラスワンダーの名前は出ていたのですが、エルコンドルパサーのだけ残っていたんです、みんな「いいと思うけど……」というくらいで。それで「じゃあエルコンドルパサーがいい」とよくわからずに応援するようになったら、あれよあれよとジャパンCまで勝ったんです。それからこの馬にはすごく思い入れがあって、翌年の凱旋門賞は最後の最後で勝てなかったので、誰かにこの借りを返して欲しいと思うようになりました。それから、競馬を見る上で一番重要なことは凱旋門賞を勝てる馬を探すことになりました。
市丸: ディープインパクトは応援に行かれたそうですね。
甲斐谷: 最初に「これだ」と思った馬はクロフネで、その次がディープインパクトの若駒Sでした。武豊騎手が新馬戦の前にブログで書かれていて気になってはいたのですが、若駒Sを見たらとんでもないレースだったんですね。それから「これ、絶対三冠獲るよ」と、皐月賞以降のG1はすべて見に行きました。そして凱旋門賞は、あの馬が交わされて負けるというのはちょっとショックでしたね。