-第09回-
中央競馬調教師 矢作芳人さん
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馬券の売り上げで生活している以上ファンに喜んでもらう責任がある
市丸: 騎手についてうかがいたいのですが、ずいぶんといろいろな騎手を使われておられますね。騎手中心ではなく、馬中心、番組中心でやられているとも書かれていましたが、開業以来の成績を調べると、一番多い藤岡佑介騎手が11勝、岩田騎手と小林慎一郎騎手が9勝と(注・09年9月初旬現在)。
矢作: 騎手については永遠のテーマで、ジレンマもありますね。わたしは番組優先でいきたいのですけれど、そうすると上位の騎手は押さえられないこともありますし。
市丸: でも、オーナーからはリーディング上位の騎手を乗せて欲しい、という話もありますよね?
矢作: そうですね、これに関しては非常に難しいです。でも、ヨーロッパの大厩舎ならまだしも、日本の20馬房くらいで「厩舎の主戦ジョッキー」という考え方はわたしはおかしいと思っています。その馬、その馬に合った主戦ジョッキーであるべきだと。慎一郎の場合は所属で調教もつけていますから違った意味もありますけれど、では藤岡主戦としてなんでも乗せるかといえばそうではない。大事なのは、馬の個性に合った騎手を乗せることですね。
市丸: 具体的に、この馬はこの騎手、という例を挙げていただけますか?
矢作: グランプリエンゼルの熊沢なんて意外なところかもしれませんけれど……。皆さん牝馬のスプリンターなんて「ビューン」と行くイメージかと思いますが、実際はそうでもなくて、しぶといんです。ちょっと腕っぷしの強いタイプの騎手で動かしてもらわないといけないので、熊沢騎手なんです。ただ、番組との兼ね合いでなかなか早くは決められないので、永遠のテーマですね。
市丸: トップ騎手でも、やっぱり合う、合わないというのはありますか?
矢作: 当然、あると思います。これは馬を見てのフィーリングで、確固たるデータを持っているわけではないのですけれど。ファンの方に簡単にわかるように言えば、気のいいタイプか追わせるタイプか。あとは脚質でしょうね。やっぱり行かせたい馬は中舘騎手とか、わたしは結構「イケイケ」なので(笑)。
市丸: ファンといえば、「矢会」という交流イベントを開催されているそうですが。
矢作: ホームページ用に矢作厩舎サポーターズクラブというのを展開していまして、300〜400人は会員がいるかと思います。基本的に年1回「矢会」というパーティーがあって、あとは牧場見学ツアー、そして去年はスーパーホーネット応援ツアーもやりましたね。
市丸: 非常にお忙しい中で、イベントも開催されるのは大変ではないですか。
矢作: 事務的なものはファンの代表の方にやっていただいているので……。あと、馬券の売り上げで生活している我々としては、ファンの方に喜んでいただくという責任はありますよね。それと、本にも書きましたけれど、あれだけ横断幕を出して宣伝していただいて、宣伝効果というのは計り知れないと思いますよ。大変なこともありますけれど、なによりうちの馬を応援してもらうのはうれしいですし、スタッフの励みにもなります。
市丸: ホームページやブログを拝見すると、本当にファンの方に対していろいろなことを情報公開されていますよね。あと、これは本で拝見したのですが、(新聞等の)コメントは必ずその通りに書いて欲しいと記者さんたちに伝えられているそうですが。
矢作: 開業のときにそう宣言しました。正直にこちらの気持ちを言っているので、それを「作文」してしまうのはやめて欲しいと。これは馬主さんの理解もないと難しいところもあるのですが。
市丸: 新聞に自分の馬のことを調子が悪いとか書いてあると、馬主さんもいい気持ちがしないということはありますよね。
矢作: もちろん調子が悪いときは出走させないですけど、馬主さんの了解を取って、できるだけ本当の状態をそのまま言うようにしています。競馬では常に勝てるということはありえないですから。
市丸: ファンの側からすると「新聞のコメントって本音は書いてないんじゃない?」と疑って見てしまうこともあると思いますが、矢作先生の場合は信じていいわけですね。
矢作: どんなに人気のない馬でも勝とうと思って出していますが、状態面に関しては、新聞のコメントを信じてくださって構わないと思います。